
「新NISAが始まっても、18歳未満の子供の分の非課税枠がない」という悩みは多くの親御さんに共通しています。
これはNISAの弊害で、「絶対投資の税金ゼロにしたいマン」を大量生産してしまったのです。
しかし、ご安心ください。
国内の税制と子供の低所得を組み合わせれば、NISA枠がなくとも実質的に非課税で運用できる「裏技」が存在します。
今回は、この戦略を実行するために最適な「国内の高配当銘柄の選び方」と、驚くべき節税効果を生む「総合課税の仕組み」を、利回り4%のシミュレーションと共にご紹介します。
なぜ「16歳未満」×「総合課税」が最強なのか
この戦略の最大のポイントは、収入がない子供の低税率(5%)と、国内株の「配当控除(10%)」を組み合わせることにあります。
- 所得税率の最低化: 課税所得195万円以下なら、所得税率は最低の5%。
- 配当控除の威力: 国内株式等の配当金であれば、税額から10%を差し引く「配当控除」が適用されます。
- 基礎控除の活用: 子供は給与収入がないため、基礎控除(所得税48万円、住民税43万円)の枠が丸ごと投資利益に適用されます。
これにより、「低い税率(5%)から、より大きな控除(10%)を差し引く」ことで、納税額を実質的にゼロ、あるいは極限まで低く抑えることが可能になります。
なぜキャピタルゲインを狙わず「高配当戦略」を選ぶのか
株式投資の利益には、
- 株価の上昇による**キャピタルゲイン(譲渡益)
- 配当金によるインカムゲイン(配当益)
の2種類があります。
資産を大きく増やすにはキャピタルゲインを狙うのが定石ですが、今回の「16歳未満の子供の口座」においては、キャピタルゲインを主な戦略とすることは避けるべき理由があります。
譲渡所得には「配当控除」が適用できない
今回の節税戦略の核は、所得税・住民税を相殺する「配当控除(10%)」の適用にあります。
- インカムゲイン(配当所得): 総合課税を選択することで、配当控除が適用でき、税率を限りなく0%に近づけられます。
- キャピタルゲイン(譲渡所得): 譲渡所得は、総合課税を選択することができず、原則として申告分離課税(一律20.315%)となります。
つまり、どんなに所得が低い子供であっても、株を売却して利益を出した瞬間、その利益には一律20.315%の税金がかかってしまいます。
譲渡所得は「累進課税」の恩恵を受けられない
配当所得では、総合課税を選択することで、基礎控除(48万円)を引いた後の所得に「累進課税」(所得が増えるほど税率が上がる仕組み)が適用されます。
そのため、子供の低い所得層では最低税率の5%を使うことができるのです。
しかし、キャピタルゲインである譲渡所得はこの累進課税の対象外のため、20%の税金が取られてしまうのです。
| 課税される所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 700万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
ご覧の通り、配当所得で総合課税を選べば、195万円以下の部分はわずか5%の税率で済みます。
これに対し、株式の譲渡所得は、所得金額にかかわらず、最初から所得税15%(+復興特別所得税0.315%)、住民税5%の合計20.315%という固定税率が適用されます。
資産の目減りを回避し、控除枠を毎年利用できる
子供の証券口座の運用目的は、長期的な教育資金や資産形成の土台作りです。
- キャピタルゲイン戦略の場合、大きな利益が出ても売却せずにいると、その利益(未実現益)に対しては控除を利用できません。また、いざ売却すると税金が20%かかるため、せっかくの低所得者優遇税制を活かせません。
- インカムゲイン戦略の場合、配当金として毎年利益が確定し、その確定した配当所得に対して毎年、基礎控除(48万円)と配当控除(10%)をぶつけることができます。
このため、「税金がほぼゼロになる」という子供の特権を最大限に活かし、効率よく資産を成長させるためには、キャピタルゲインを狙うよりも、高配当株によるインカムゲイン戦略を選ぶことが最適解となるのです。
配当控除狙いの「国内高配当株」おすすめ銘柄候補
インカムゲイン戦略といっても何に投資すればいいのかわからない、という人も多いと思います。
そこでこの戦略で、安定した利回り(4%前後)を確保しつつ、配当控除をフル活用できる国内株式の候補を3つのアプローチでご紹介します。
1. ETF(上場投資信託)で手軽に分散投資する
個別株の分析や、複数の銘柄を管理する手間を省きたい場合に最適です。
高配当株の詰め合わせパックを市場で購入するイメージです。
- 【1489】NEXT FUNDS 日経平均高配当株50指数連動型上場投信
- 特徴: 日本の高配当株の代表格です。日経平均構成銘柄のうち、配当利回りの高い50社に投資しています。
- メリット: 自動で構成銘柄が入れ替わる(リバランス)ため、管理が楽で、特定の銘柄が業績悪化してもダメージが分散されます。
- 【1478】iシェアーズ MSCI日本株高配当株 ETF
- 特徴: 財務が安定しており、配当利回りが高い銘柄に幅広く投資するETFです。
2. 投資信託で少額から自動積み立てする
子供の口座で「毎月1万円ずつ」など、継続的に積み立てていく場合に最も適した手法です。
ETFと異なり、1円単位で購入できます。
- SBI日本高配当株式(分配重視型)
- 特徴: 2023年末に設定され、非常に低い信託報酬(年0.099%)が魅力のファンドです。
- メリット: コストが安いため長期保有に向き、少額から投資可能。年4回分配金を出すため、コンスタントに配当所得を得られます。普通分配金は配当控除の対象外なので注意。
3. 個別株を選定し「日本版SCHD」を自作する
個別株を購入すれば、信託報酬はかからず、配当控除のメリットを最大限享受できます。
特に、米国のSCHDのように「減配しない(連続増配・累進配当)」を重視するなら、日本株でもその方針を掲げる優良企業を選ぶのが最善です。
- 三菱HCキャピタル (8593) や KDDI (9433):
- 日本株の中でも屈指の連続増配記録を持ち、株主還元に非常に積極的です。安定した配当の成長が見込めます。
- 三菱商事 (8058) や 三井住友FG (8316):
- 日本経済を支える超大型株であり、累進配当(配当を維持するか増配する)を明確に宣言している企業です。財務基盤が非常に安定しています。
【シミュレーション】利回り4%での税負担詳細
国内の高配当株(利回り4%)を子供の証券口座で運用し、「総合課税」として確定申告した場合の税負担を詳細に検証します。
税金の計算式
所得税と住民税の支払う税金の計算式について抑えておきたいと思います。
少しややこしいので、苦手な人は飛ばしてください。
以下は所得税の計算式です。
配当収入=投資元本×利回り
例)1500万円投資して年利4%の配当収入は1500万円×4%=60万円
課税所得=配当収入ー基礎控除48万円
例)1500万円投資して年利4%の配当収入を得た場合の課税所得は、60万円ー48万円=12万円
算出所得税額=課税所得×所得税率(例:5%)
例)1500万円投資して年利4%の配当収入を得た場合の算出所得税額は12万円×5%=0.6万円
| 課税される所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| … | … | … |
最終所得税額=算出所得税額ー(配当収入×10%)
例)1500万円投資して年利4%の配当収入を得た場合の最終所得税額は0.6万円ー(60万円×10%)=0円
となり、所得税は0円になります。
もう少し紐解いてみると、以下式となり、
最終所得税額=((配当収入-48万円)×5%※)ー(配当収入×10%)
5%<10%となっているので、絶対に結果はマイナスになり、税金はゼロになります。
更に詳しく見ると配当収入378万円までは所得税はゼロになります。
なお、住民税は基礎控除43万円、配当控除率2.8%にして計算します。(均等割は省略)
計算結果を見てみましょう。
シミュレーション前提条件
- 利回り: 4%
- 申告方法: 総合課税を選択
- 基礎控除: 所得税 48万円 / 住民税 43万円
- 配当控除率: 所得税 10% / 住民税 2.8%
| 投資元本 | 配当収入 | 所得税 | 住民税 | 所得税+住民税 | 実質課税率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1200万円 | 48 | 0 | 0 | 0 | 0.00% |
| 1500万円 | 60 | 0 | 0.02 | 0.02 | 0.03% |
| 3000万円 | 120 | 0 | 4.34 | 4.34 | 3.62% |
| 6075万円 | 243 | 0 | 13.196 | 13.196 | 5.43% |
| 9450万円 | 378 | 0 | 22.916 | 22.916 | 6.06% |
配当収益60万円(投資元本1500万円、利回り4%)までは、ほぼ税金ゼロ円です。
これすごくないですか?
そもそも元本1500万円はかなりの金額ですし、これだけの金額になると贈与税が発生しそうですしね。
結論:1500万円までなら「子供口座」が最強の選択肢
上記のシミュレーションが示す通り、投資元本が約1,500万円(年間配当60万円)に達するまで、子供の証券口座は実質税率がほぼ0%の「非課税ゾーン」として機能します。
親がNISA枠外(特定口座)で運用すれば20.315%取られる税金が、ほぼ全額手元に残る計算です!
重要な注意点:対象外資産と家族全体への影響
この戦略を実行する際は、以下の点にご注意ください。
- 配当控除の対象外となる資産:
- 高利回りのJ-REIT(不動産投資信託)やインフラファンド
- 外国株式・外国ETF(例:米国のSCHDなど)や、それらを主要投資対象とする投資信託 これらの資産には配当控除が適用されないため、必ず「国内株式」または「国内株式を組み入れた投資信託・ETF」を選んでください。
- 健康保険の扶養の壁: 配当所得を「総合課税」で確定申告すると、その全額が子供の収入としてカウントされます。加入している健康保険組合によっては、年間収入が130万円(またはそれ以下)を超えると、親の社会保険の扶養から外れ、国民健康保険料の支払いが発生し、トータルの手取りが減る可能性があります。
- 親の会社の家族手当: 親御さんの勤務先から支給される家族手当等の支給要件に「子供の所得制限」がある場合、確定申告により手当がカットされるリスクがあります。
この戦略は強力ですが、「確定申告の手間」と「扶養の壁」を把握実行することが重要になります。
補足:FIRE層・扶養内の方向けの「社会保険上の壁」
この「国内高配当×総合課税」戦略は、給与収入のないFIRE達成者や専業主婦/主夫にとって、所得税や住民税(所得割)を極限まで抑えられる非常に有効な手段です。
しかし、これらのメリットは「社会保険上のコスト増」によって相殺されるリスクが非常に高く、慎重な検討が必要です。
1. 扶養に入っている方(専業主婦/主夫など)への影響
配偶者の社会保険の扶養に入っている方の場合、国民健康保険(国保)料の支払いはありませんが、「130万円の壁」に注意が必要です。
- 130万円の壁の喪失リスク: 社会保険の扶養継続条件は、年収130万円未満です。配当所得を総合課税で確定申告すると、配当金の額面全額がこの収入判定にカウントされます。
- 結果: 年間配当収入が130万円以上になると、強制的に扶養から外れ、自身で国民健康保険(国保)に加入しなければなりません。この際、高額な配当所得を元に国保料が計算されるため、大きな負担増となります。
2. 独自で国保に加入している方(自営業・FIRE単身者など)への影響
すでに国民健康保険(国保)に加入している方は、以下の問題が直撃します。
- 国保料の算定所得への加算: 通常、配当金や売却益を源泉分離課税(申告不要)で済ませた場合、それらの所得は国保料算定の対象となる「所得」に含まれません(多くの自治体の場合)。
- 結果: 総合課税を選択すると、所得税・住民税はゼロになっても、配当所得全額が国保料算定対象に算入されます。これにより、国保料が大幅に増加し、税金がゼロになったメリットを大きく上回るコストが発生する可能性が高いです。
【結論】
| 比較項目 | 子供(16歳未満) | 無職・FIRE層(給与収入ゼロ) |
|---|---|---|
| 戦略の目的 | 非課税期間の最大化(NISA代わり) | 低コストでのインカム生活 |
| 所得税の扱い | 配当所得約378万円まで実質ゼロ | 配当所得約378万円まで実質ゼロ |
| 住民税(所得割) | 配当収入約59.7万円まで実質ゼロ | 配当収入約59.7万円まで実質ゼロ |
| 最大のリスク | 児童手当の所得制限、将来の扶養控除(16歳以上)の喪失リスク。 | 国民健康保険料が激増するリスク(所得に配当金が算入されるため)。 |
| 社会保険の扶養 | 親の扶養(健康保険)の対象外のため問題なし。 | 最大の壁(130万円の壁)あり。 |
| 戦略の可否 | 推奨される(税制メリット大)。 | 非推奨(国保料増が税メリットを上回る可能性大)。 |
FIRE層や扶養内の方がこの戦略を検討する際は、「税金がゼロになるメリット」と、自治体ごとに異なる「国保料の増加額」を天秤にかけて比較検討することが必要になります。
多くの場合、高配当収入層にとっては、税金を払ってでも源泉分離課税(申告不要)を選び、社会保険料の算定対象から所得を外す方が、トータルの手取りは多くなります。


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